1,000の目が私一人に向かってくる
私の女優人生はすべて人との出会いだなあと思います。俳優座で千田是也先生にお会いできたこと、それから、田中先生、福田善之さん、斎藤さん、井上ひさしさん、坂手洋二さん、そして演出家の木村光一さん……。皆さんが何本も私のために新作を書いてくださいました。
新作に挑戦するのはちょっと怖いんです。「美佐子さんに向けて書きますよ」と言われて、「ありがとうございます、うれしい!」なんですけれども、いったいどんなができてくるのか、私は何をやるのかわからないから、内心ドッキドキ。
でもね、振り返って「こんなのいや」と思ったり、失望した作品は一つもないの。ありがたさいっぱい、そしてそれぞれの作品が今の私を作ってくれていると思います。
井上ひさしさんが書いてくださった一人芝居の『化粧』は、28年間も続けることができました。500人のお客様がいたら1000の目が私一人に向かってくる一人芝居。
ストレスも大きく、大変だったけれども続けてきて、納得して2010年に自分で決めておしまいにしました。理由は今回と同じ、「元気でいるうちにやめたい」と思ったから。
そうしたら、これも巡り合わせなのですが、ちょうどその頃、リア王をやらないかというお話があり、シェイクスピア作品には縁のなかった私がリア王役に挑戦(『リア』)、その後『リチャード三世』にも繋がりました。シェイクスピア作品の、今聞いても少しも古びない、何百年も生きて語られてきた言葉の豊かさ。晩年になって、大きな宝物を頂きました。