苦い思い出
私は駆け出しの物書きで、多くの女性先輩たちからの引き立てを受けていました。物書きのタマゴの女性に目をつけて、いろいろな仕事をさせてくれたのは、戦後間もなく新聞社や放送局に入社した女性たちでした。
その一人が致命的ながんに襲われて入院、手術はしたものの回復不能、と言われました。
私は早速お見舞いに行き、私がどれだけ感謝しているか、ご好意を無にしないように努力することを誓おうと思っていました。
そのうちに、すでにお見舞いに行った同輩先輩たちから恐ろしい話が伝わってきました。
――個室の病室に通されたけれど、彼女は固く目も口も閉ざし、いろいろ話しかけてもいっさい反応がなかった。見舞客は30分ほど病室に立ち尽くし、ことばを変えて話しかけたが反応なし。すごすごと立ち去るほかはなかった――。