三谷氏が込めた思い

三谷氏の脚本は鎌倉幕府の公式記録である『吾妻鏡』などの史書に基づいて書かれているものの、この範頼の最期の部分は創作である。だからこそ三谷氏の思いが込められていると見るべきだろう。範頼は戦わない人生を選ぶべきだったと三谷氏は考えたのではないか。

範頼に限らない。源平合戦で八面六臂の活躍を見せた義経も戦ったことで不幸になった。頼朝によって自刃に追い込まれている。幸せになったのは頼朝だけかというと、これも違う。

頼朝が危篤状態に陥っても御家人たちは誰一人として容体を心配せず、関心事はもっぱら次期政権がどうなるかだった。嫡男の源頼家(金子大地)ですら「あれは助からない」と突き放し、自分への権力の継承しか頭になかった(第26話)。あらゆる戦を勝ち抜いた頼朝の最期もまた哀れだったのである。

意識不明になって亡くなる前、政子が目にした頼朝(大泉洋)は出会いの頃のように穏やかだった

三谷氏は暗に「戦いや憎しみからは何も生まれない」と訴えているのではないか。

後半は戦いがなくなるのかというと、そうならないはずだ。史実がそうだからである。

18歳で将軍となる頼家をサポートする「13人の合議制」の内紛、義時の妻・比奈(堀田真由)の叔父である比企能員(佐藤二朗)と時政が争う「比企の乱」(1203年)、時政とりくが暴走する「牧氏の変」(1205年)――。

これまでと同じく、勝者も敗者も誰一人として幸せにならないはずだ。

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