「紅花の守人 いのちを染める」のナレーションを務めた今井美樹さん(撮影◎田村充)
今井美樹さんがナレーションを務めている、山形発の映画『紅花の守人(もりびと)いのちを染める』(2022年9月3日(土)より公開)は、紅花文化を慈しむ人々の姿を4年の歳月をかけて記録したドキュメンタリー作品です。今井さんは以前、紅花の里である山形市高瀬地区を舞台にした劇場用長編アニメーション『おもひでぽろぽろ』(1991年 スタジオジブリ)において、紅花に魅了される主人公タエ子の声優を担当。あれから30年を経て、当時タエ子が出会った紅花に今作で再会した今井さんが、ナレーションへの思いや人生観について語ってくれました。
(構成◎かわむらあみり ヘアメイク◎福沢京子 撮影◎田村充)

一生懸命生きた積み重ねがあっての今

人生について今思うのは、前を見るよりも振り返ることが多くなってきたということです。夏が過ぎ、晩夏になり、秋になり……移りゆく景色を「こんなふうにこの街路樹の色は変わっていったんだろうな」という感覚で楽しめるようになってきたのが、年を重ねてきた今の年代。前だけを見て走ってきた季節とは違い、周りを見回すようになれた視野の広さがあります。

自分の人生を振り返り、あらためて故郷や日本について思うことも。これまでたくさんの人たちと生きてきた中で「生かされてきた」と言うと大袈裟に聞こえるかもしれませんが、ひとりで生きてきたわけではないんですよね。その時代ごとに出会ったものや人、場所の中で、一生懸命生きてきた積み重ねがあって、今がある。

近年はコロナ禍や戦争があり、人生にはいつ何が起こるかわからないと感じます。なんでもあって当たり前じゃないんですよね。私たちの世代は、長い歴史の中で偶然にも戦争がない時代に青春時代を過ごせてきましたが、生きていくことを途絶えることなく続けるためには、実はすごく意識的にトライアルして頑張っていかなければ、今ここにある当たり前のものは本来なかったかもしれない。

私たちが次の世代へと繋いでいく、途絶えるかもしれないものを続けていくということの象徴が、例えば、この紅花文化。『おもひでぽろぽろ』も、そういったものの象徴として、紅花の物語を取り上げたのではと思うこともあります。

今回、『紅花の守人 いのちを染める』のナレーションのお話をいただいた時は、まず「紅花のドキュメンタリー映画でなぜ私に依頼が来たのかな?」と思ったのですが、すぐに「ああ、タエ子ちゃんだからね!」と理解できてお引き受けしました。きっと今井美樹ではなく、タエ子ちゃんが伝統を繋いでいく使命なのだと感じています。

紅餅づくり。手間ひまのかかる作業だ(C)映画「紅花の守人」製作委員会