「おのおの時間を気にすることなく、好きなルートやペースで眺める」(提供:『余白』より)
映画、ドラマ、舞台などで異彩を放つ、今大注目の女優、岸井ゆきの。2017年、映画『おじいちゃん、死んじゃったって。』で初主演、2019年、主演映画『愛がなんだ』では、第11回TAMA映画賞・最優秀新進女優賞を受賞するなど、突出した演技力で高い評価を受けています。そんな岸井さんのプライベートの過ごし方とは――。

映画や脚本の奥に見えるもの

両親の影響で美術館に行くのが好きなのだけど、誰かと一緒に行くことはない。

家族と連れだって行くことはあっても、ひとたび館内に足を踏み入れたら、そこでサヨナラ。おのおの時間を気にすることなく、好きなルートやペースで眺める。

それで、ひととおり満足したら、出口のソファにひとりで腰かけている母を見つけて「いちばんゆっくり見てると思ったのに意外~」なんて声をかけたり、「みんな全然出てこないけど、そんなに気に入った絵があるのかなあ」なんて、売店におかれた図録の見本をぱらぱらめくりながら反芻したり、気に入った絵のポストカードを買ったりしながら、全員が合流するのをのんびり待つ。

帰り道には感想も言い合うけれど、「あの絵を描くのに人生の半分を費やしてたって、すごくない?」「あの絵、縦の線しか描かれてないとか、すごすぎるでしょ!」なんてしょうもないことばかり、私の口からは飛び出す。

でもたぶん、友達と一緒だとちょっといいこと言わなきゃと気負い、何も言えなくなってしまうのではないだろうかと思って、なんとなく避けているのだ。