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2022年10月4日、東京・大手町の日経カンファレンスルームで、「依存症の正しい報道を求めるネットワーク」主催のグッド・プレス賞2020(雑誌部門)の授賞式が行われました。コロナの影響もあり、2019年~2021年度までの3年分の、ゲームからアルコール、薬物やギャンブルなど、さまざまな依存症を扱った記事が表彰されました。精神科医として、依存症治療プログラムの開発や研究を行う松本俊彦さんが、アルコール依存症について言及した記事を再配信します。

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9月22日、元TOKIOの山口達也さんが道交法違反(酒気帯び運転)の現行犯で逮捕されました。長年、精神科医として依存症患者の治療にあたる松本俊彦さんは、山口さんの様子に言及した報道などからアルコール依存として治療する必要性を感じたといいます。手に入れるハードルが低いだけに飲酒依存になりやすい実態、適切な治療を受けるべき理由についてお話を聞きました

アルコールは合法的に摂取できる「薬物」

山口達也さんの様子を報じたニュースに接して、私は「アルコール依存症の可能性が高い」と感じました。「もしそうであれば、一刻も早く適切な治療を受けてほしい」とも。

山口さんは2年前、酒に酔った状態で女性にキスを迫るなどの強制わいせつ容疑で書類送検されています。その後、週刊誌のインタビューでは事件後に酒を断っているとも発言していました。それなのに、ふたたび飲酒のうえ法律違反をする事態になってしまった。「やめよう」と自分を律していても、再び手を伸ばしてしまう。その繰り返しから抜け出せないのであれば、それは依存症の状態です。

依存症は、誰もがかかる可能性のある「病気」。けっして治らない病ではありません。適切なタイミングで治療を受け、時間を経て社会復帰をすることができます。

山口さんの逮捕後、メディアでは「芸能界復帰の目が消えた」「今回の事故ですべてが台なしに」などという表現や、「病気以前の、人間性の問題」というコメントが見受けられ、私は怒りすら覚えました。もしこの発言が本人に伝わり、飲酒から脱する意欲を失ってしまうとどうなるか。本来ならば受けられたはずの治療への道が、完全に閉ざされてしまうのです。

お酒に含まれるエチルアルコールは、多くの日本人が日常的に摂っている「薬物」。覚せい剤や大麻などとは異なり町で簡単に手に入る。合法であるがゆえに乱用(乱飲)しても逮捕されず、やめるきっかけがつかめない。さらに、脳や肝臓に多大な害を及ぼしてしまう。それらの点で、違法薬物よりもずっと厄介なものであると言えるのです。