脳が行動をコントロールできない

みなさんの中には、薬物依存症患者=犯罪者予備軍、というイメージをお持ちの人も多いでしょう。しかし、実際はアルコール依存症患者のほうが、交通事故や性暴力、ドメスティックバイオレンスなどの他害行為(他者を傷つける行為)と結びつきやすい。アルコール依存の治療を受けることが、ひいては「犯罪を未然に防ぐ」ことになります。

「病気だといっても、結局は意志が弱いからやめられないんだろう」と思われがちですが、それも誤解です。患者は「脳が自らの行動をコントロールできない」状態になっていますから、意志の力で短期的にはやめられても、長期的にやめ続けることは難しい。依存症治療専門の病院に行き、あるいは治療施設に入って治療プログラムをしっかり受けることがなにより大切なのです。

実際に私は、依存症で苦しんだ人たちが治療プログラムを受け、社会復帰を遂げる過程を数多く見てきました。啓発活動に取り組む彼らの姿を見るにつけ、依存状態に陥っている自分を認めて病院に行くこと、そして適切な治療を受けることの大切さを改めて噛み締めます。

最後に、この場を借りてみなさんにぜひお伝えしたいことがあります。

コロナ禍で、「家飲み」がメジャーになりました。適度に楽しむ分にはいいのですが、不安や孤独感が募っている人にとっては、アルコール依存になりやすい環境であるとも言えます。

繰り返しになりますが、アルコールは、合法的に摂取できる「薬物」。

飲酒する誰もが依存症という病に陥る可能性があることを、よく覚えておいていただきたいのです。