樋口 高額所得者の条件は?

上野 夫婦の年金額の合計が280万円以上。これが「高額~」です。

樋口 そこに該当する人はたくさんいるでしょうし、決して余裕があるというわけじゃない。

上野 18年には、さらに所得の高い人は3割負担になりました。単身世帯で340万円以上、夫婦世帯で463万円以上です。3割までいくと、他の民間サービスと価格はあまり変わりません。

樋口 いまは見送られていますが、この先、2割負担の対象者拡大の案も出てきそうです。

上野 これらが意味するものは、利用抑制、つまり「介護保険を使うな」です。代わりに政府が推奨するのが、「混合介護」。「介護保険制度で足りないサービスは、全額自費で買いなさい」と。「介護の社会化」を目指して始まった制度が、「介護の市場化」に変えられつつある。

「公的な介護保険」以外のサービスは自由市場ですから、競争が生まれ、低価格競争の結果、サービスが劣悪なものになりかねないという予想もあります。

樋口 いいサービスを求めるなら、お金を出すのもやむなしと。

上野 老後の沙汰も金次第。それができない場合は家族がやれと、また家族に押し戻しているのです。こうした現状を樋口さん、うまい表現をなさいましたよね。

樋口 「在宅(おうち)がだんだん遠くなる」……と表現しました。

<後編につづく

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