先生は主人に向かって厳しい口調で言いました。「これは大腸がん。即手術しないとダメだ」主人はびっくりして、すぐさま言葉が出ないようでした――(提供:photoAC)
内閣府が2019年に行った調査によると、60歳以上の人で万一治る見込みがない病気になった場合、約半数(51.1%)の人が「自宅」で最期を迎えたいと回答したことが明らかになった。しかし、週刊誌記者として終末期に直面した現場の声を聞いてきた笹井さんいわく、「家で死ぬことは簡単じゃない」とのこと。83歳の夫を大腸がんで亡くした、84歳の妻への取材で見えてきた、自宅で看取ることの実態とは――。

 病気の予兆

コロナ禍の2020年7月、市川さんは自宅で亡くなった。享年83。市川さんは75歳の時に「大腸がん」と診断され、その時点でステージ4、「余命3か月」という医師の見立てであった。しかし、それから7年7か月もの日々を生きた。最期は穏やかに旅立ったという。

市川さんは長い闘病生活のほとんどを自宅で過ごした。それを支えた同い年の妻は、元気で前向きな人だ。

今、84歳というが、60代といっても通るほど見た目が若い。私がそう言うと、「でも介護をきっかけに膝も腰も、全身がぼろぼろなのよ」とつぶやく。在宅の日々を振り返る――。

最初に気づいたのは、トイレの汚れ。便器に血のような色が残っていたんです。それも最初は鮮血だったのに、日が経つにつれ、どす黒い色になっている。でも主人に尋ねても、「痔だ」の一点張り。「痔の薬を買ってきて」と私に頼むんです。

私も最初はわからないから、薬局で購入して渡すと、それを自分で塗ったりしていたみたい。でもトイレの汚れは一向に良くなりませんでした。