夫が旅立ってから、1年8ヵ月。夫婦の思い出を振り返ったり、ときにはピアノの練習をすることも

新天地での生活

早期退職した翌月、私たちは沖縄に移住しました。じつはその数ヵ月前に沖縄を訪れる機会があり、海岸を歩いていたときのこと。夫が、ふと「ここに来れば、元気になる気がする」と言ったのです。ふさぎがちだった夫の希望にあふれた言葉に、私も大賛成。

私はアルツハイマー病のことはよく知りませんでしたが、夫がやりたいということをやらせてあげたい一心でした。沖縄の自然のなかで暮らせば元気になるのでは――。そんな望みを持って。

部屋から海が望め、散歩には絶好の観光地。でも、景色がよくても、毎日歩いていると飽きてしまうので、夫の提案で夫婦2人の読書会をしたり。することがない毎日は退屈だったのか、「僕も洗い物をするよ」と家事を手伝ってくれることも。しかし、夫は病を深刻にとらえて、ふさぎ込む時間が増えていきました。

そんななか、夫の先輩で開業医の上田裕一先生が気にかけてくださってありがたかったです。先生が勧めてくださった農作業で夫も体を動かして。

ほかに誘っていただいたのは院内回診。入院患者さん一人ひとりに「具合はどうですか」と声をかけるのです。うれしそうに病院に出かける夫を見て、「やはりこの人は医師という仕事が好きなのだ」と思いました。