病を公表、役に立てるなら
その後、2007年、夫に大きな転機が訪れました。次男の結婚式に出るため、沖縄から北海道へ行くことに。そのとき再会した札幌の友人が、とある講演会に誘ってくれたのです。
講師のクリスティーン・ブライデンさんは、46歳で認知症になったオーストラリアの元高級官僚。いち早く病を公表して世界各国で講演中でした。認知症になっても人生を諦めない、その生き方に触れれば、夫のなかで何かが変わるかもという期待が膨らんでいました。
講演の最後に、ブライデンさんが「認知症の人がいたら、手を挙げてください」と会場に呼びかけました。すると横にいた夫が高々と手を挙げたので、私はびっくり。夫いわく「自然に手が挙がったんだよ」。
当時はいまよりも認知症に対する誤解や偏見がありました。正直、その頃は夫も私も人前に出ることに臆病になっていて。長い時間2人だけでいると気づまりで、笑うことも減っていたのです。
ですが、講演会での出来事が背中を押してくれた。認知症を恥ずかしい病だと思わなくていい、自分にも何かできるんじゃないかと思ったのでしょう。当事者が語ることで、尊厳をもって生きられる。何より人の役に立つことをしたいという夫の思いは、昔から一貫していました。