仕事があるということは幸せなこと
私の知人の男性に、数百体の動物の縫いぐるみを持っている人がいる。年に一度、ドライシャンプーをするのだそうだ。縫いぐるみにすれば、多分湿疹はおきないのだろうと思うが、私は猫の温かさを抱いて寝ている。
猫も私の寝巻の袖の一部を自分のお母さんだと思っているらしく、しゃぶって涎(よだれ)だらけにする。
「汚いなあ、涎はダメよ」
と私は、その度に言う。しかしそれが生きている仔猫の証拠だ。
一人暮らしにはペットは大切だと思うようになった。私は最近体力がなくなって、一人でいると朝いつまでも寝床にいたいと思うこともある。
しかし猫のためにどうしても起き上がって、ご飯をやり、飲み水を取り換え、ウンチ箱をきれいにしなければならない。
与えねばならない仕事があるということは幸せなことだ。それがないと「自分がしてもらう」だけの立場になり、運動能力、配慮、身の処し方、すべてが衰えてくるだろう。
※本稿は、『人生は、日々の当たり前の積み重ね』(中公新書ラクレ)の一部を再編集したものです。
『人生は、日々の当たり前の積み重ね』(著:曽野 綾子/中公新書ラクレ)
夫の三浦朱門が亡くなって2年が経つ。知り合いには「私は同じ家で、同じように暮らしております」といつも笑って答えている。見た目の生活は全く変わらないが、夫の死後飼い始めた2匹のネコだけが、家族の数を埋める大きな変化である――老後の日常と気構えを綴るエッセイ集。