「区長に就任してお気の毒です」

ーー高野区長が初当選されたのは1999年、61歳の時ですね。

家業の古書店を継ぎ、豊島区商店街連合会の青年部長を務めている時に、商店街から区議を推す話が出て私が担ぎ出されました。そこから都議を経て、3期の途中で区長選に出ました。豊島区初の民間出身区長で、「これでようやく自分の夢に向かえる」と、期待しました。

ところが、財政の担当課長から最初にかけられた言葉が、「区長に就任してお気の毒です」。耳を疑いましたね。

ーーどういうことなんでしょう?

私の前の区政は「福祉路線」ということになっていましたが、その実態はバブルを背景にした「土木路線」。福祉を名目に、区の出張所、児童館、高齢者の拠点施設、狭小公園などハコモノづくりが、惰性でずっと続いていました。その結果、豊島区の「借金」は872億円という、とんでもない金額に膨れ上がっていたのです。

経常収支比率は99・5%で、つまり自由に采配できる予算はたったの0・5%でした。これでは文化都市など、夢のまた夢です。しかも、その借金は土地開発公社に付け替えられていて、全容が区の財務諸表には記されていなかった。それを知った時は愕然として、また、猛然と怒りがこみあげてきました。

※本稿は『中央公論』2021年6月号の一部を再編集したものです。

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聞き手:清野由美(きよのゆみ)

ジャーナリスト。慶應義塾大学大学院修了。著書に『観光亡国論』(アレックス・カー氏との共著)、『変われ! 東京自由で、ゆるくて、閉じない都市』(隈研吾氏との共著)など。