「この年になると夫に先立たれたり、子どもが離れていったりして寂しくなっちゃう人が多いけれど、その点ダメージのない私はラクだなあと思います。」(撮影:宮崎貢司)
芸歴65年を超えた今も、映画やドラマで重要な役柄を演じる女優の吉行和子さん。幼くして父を亡くし、兄、妹、母を相次いで看取りましたが、ひとりになっても寂しくはないと言います。(構成=平林理恵 撮影=宮崎貢司)

家族バラバラな環境で育って

8年前に、107歳になる母・あぐりを見送り、私はひとりになりました。母とはずっと同じマンションの別々の部屋で暮らしていて、私がしょっちゅう母の部屋を訪ねていたんです。

いなくなられて改めて思ったのは、親って生きているだけで、どこか安心感を与えてくれる存在だったんだなあということ。母は亡くなる10年前から寝たきりでしたが、寝たきりでもなんでも、とにかくそこにいてくれるだけでよかった。

と言っても、母を亡くしてすごくショックを受けた、というわけではないんですよ。私にとってひとりであることは、ごく当たり前のことでした。

父・エイスケは私が4歳のときに逝ってしまいましたし、母は美容師として朝から晩まで仕事にかかりきり。11歳年上の兄・淳之介も中学卒業後は静岡の高校に行ってしまいましたし。

揃って食卓を囲むなんて経験はほとんどなく、家族バラバラな環境で育ちました。だから、家族と一緒にいるのが楽しい、という感覚が私にはないのです。

28歳のときには一応結婚もしました。でもね、早々に「あー、失敗した」と感じてしまって。なんとか4年間頑張ってはみたけれど、やはりダメだった。私はひとりでなきゃ生きられないんだ、と確信しました。

そこからは腹を括って、ずっとひとり。この年になると夫に先立たれたり、子どもが離れていったりして寂しくなっちゃう人が多いけれど、その点ダメージのない私はラクだなあと思います。