仁左衛門さんの舞台から吹いてくる風には若さがある。36年ぶりに仁左・玉コンビが再演して大きな話題となった南北の『桜姫東文章』では、権助のむせ返るような男の色気が劇場中に充満した。仁左衛門さんはどうして、いつまでも若いのだろう。
――人としての進歩がないだけなんです(笑)。皆さん歳を重ねていかれるにつれて人としての厚みがついてくるんですけど、私にはその厚みが身につかないんです。
以前に若手芝居で演じた作品を映画にしたいと制作会社からオファーがあって、前に自分がやってた役かと思ったら、父親役だったので断ったけどね(笑)。私は自分の歳を自覚できていないんですね。
そういうのはやらないでいいと思います。目標となさっている十五代目羽左衛門は、生涯、若衆役でした。歌舞伎でも白(はく)(白髪の鬘をつける老け役)はやらなくていいと思います。
――私は、若衆は無理だけど、老けはもちろんですが、お客様が受け入れてくださる範囲で若い役も勤めていきたいと思っています。ただし私自身がどこまで許せるかですね。その見極めが大事ですね。
ヘアメイク:
林摩規子
スタイリング:
DAN
衣装協力:スーツ 209,000円、ウエストコート 49,500円(ギーブス&ホークス)、シャツ 41,800円、チーフ 13,200円(ターンブル&アッサー)/すべてヴァルカナイズ・ロンドン、その他/スタイリスト私物
出典=『婦人公論』2023年2月号
片岡仁左衛門
歌舞伎俳優
1944年3月14日、十三代目片岡仁左衛門の三男として大阪に生まれる。49年9月大阪中座の『夏祭浪花鑑』の市松で片岡孝夫の名で初舞台。98年1・2月、歌舞伎座『吉田屋』の伊左衛門、『助六』の助六ほかで十五代目片岡仁左衛門を襲名。98年度毎日芸術賞、2003年朝日舞台芸術賞、16年読売演劇大賞・同最優秀男優賞など受賞歴多数。06年紫綬褒章受章、日本芸術院会員。15年重要無形文化財保持者(人間国宝)に認定。18年文化功労者。
関容子
エッセイスト
雑誌記者を経て、エッセイストに。1981年『日本の鶯――堀口大學聞書き』で日本エッセイスト・クラブ賞、角川短歌愛読者賞受賞。96年『花の脇役』で講談社エッセイ賞、2000年『芸づくし忠臣蔵』で読売文学賞、芸術選奨文部大臣賞を受賞。『勘三郎伝説』『客席から見染めたひと』ほか著書多数。最新刊『銀座で逢ったひと』(小社刊)が好評発売中