圧倒的なオーラを放つトップスターの存在、一糸乱れぬダンスや歌唱、壮大なスケールの舞台装置や豪華な衣裳でファンを魅了してやまない宝塚歌劇団。初の公演が大正3年(1914年)、100年を超える歴史を持ちながら常に進化し続ける「タカラヅカ」には「花・月・雪・星・宙」5つの組が存在します。そのなかで各組の生徒たちをまとめ、引っ張っていく存在が「組長」。史上最年少で月組の組長を務めた越乃リュウさんが、宝塚時代の思い出や学び、日常を綴ります。第43回は「すみれコード」のお話です。
(写真提供◎越乃さん 以下すべて)
(写真提供◎越乃さん 以下すべて)
「すみれコード」がもうないんだと気付いた瞬間
宝塚には「すみれコード」というものがあります。
それは夢の世界を守るための暗黙のルールです。
テレビやラジオの「放送コード」のようなものですが、
品格を損なうような言動をしない、観客の夢を壊すような内容の表現や演出をしない、
ファンもそれを求めない、という
「清く正しく美しく」が原理原則の暗黙のルールです。
例えば、タカラジェンヌは本名や年齢を公表しません。
公表しているのは、誕生日、出身地、出身校、身長、好きな花、好きな食べ物、愛称などです。
カサブランカとチョコレートが好きだということは公表しても、
夢を売るフェアリーの年齢が明かされることはありません。
退団してから、新聞の記事の自分の名前の下に年齢が載っているのを見た時、
もう夢の住人ではなくなったんだと、初めて実感しました。
ある時、ラジオに出演した時、
パーソナリティーの女性が、私の顔をまじまじと見ながら言いました。
「リュウさん、女性を振ったことありますか?」
「………!?」
「すみれコード」がもうないんだと気付いた瞬間です。
何て斬新な質問なんだと、驚くより感心したほどでした。
斬新といえば、早稲田大学の舞台芸術を学ぶ生徒さん達の質問も斬新でした。
宝塚にいた時によく使っていた「ご想像にお任せします」という台詞が、
もうこれからは通用しないことを思い知りました。