「これでいいのかね」

祖母が亡くなったあと、祖父は叔母の家の近くにある介護サービス付きのマンションでひとり暮らしを始めた。叔母は常々「しょっちゅう喧嘩よ」と言っていた。家族とはいえ、距離が必要だった。

祖父の様子を見に部屋に遊びに行ったのは、秋が終わる頃だった。無機質な部屋で、祖父はなんだか浮いて見えた。

「これでいいのかね」。祖父は半笑いで、問いかけてきた。こんなところで人生を終えていいのかね。私はそういう意味だと理解し、何も言えなかった。

「いいわけがないよ」。心の中では、そう答えていた。祖父は島の広い家が似合う人間だった。昔インドネシアで買い集めたという民芸品に囲まれた平屋の家が、祖父にはしっくりくる。