「イクメン」という言葉の功罪

本来「イクメン」は「育児を楽しむ男性」というスローガンであったはずだ。

しかしいつしか「育児や家事と仕事を両立でき、妻への気遣いもでき、稼げる男性」になっていった感は否めない。

実際にイクメンという言葉を生み出した「イクメンクラブ」のホームページ*2にも、「イクメンとは、『育児を楽しめるカッコいい男』のことである。」と定義されている。

本来は男性育児をポジティブに捉えるための言葉として作られているのは間違いない。

しかし、「イクメン」という言葉は「育児を楽しむ男性」だけではなく、過剰な期待や押しつけを抱えてしまい、男女双方から嫌われる言葉になってしまったのだ。

イクメンという言葉が男性育児を普及させたことを「功」とするならば、育児をする男性に「過度の母親化」を求める言葉になってしまったことが「罪」と言えるのかもしれない。

「バリキャリ」が女性に過度の男性社会への適応を求める言葉だったとすれば、「イクメン」は男性に過度に育児社会への適応を求める言葉になり、性差を乗り越えて育児に適応する、まさに「母親化」した父親像を生み出してしまったのである。

*2 イクメンクラブ、“イクメンクラブについて”
http://www.ikumenclub.com/3kajyou/ 2022/12/30閲覧

※本稿は、『ポストイクメンの男性育児-妊娠初期から始まる育業のススメ』(中央公論新社)の一部を再編集したものです。


ポストイクメンの男性育児-妊娠初期から始まる育業のススメ』(著:平野翔大/中央公論新社)

改正介護・育児休業法により、男性育児の増加が期待される中、男性が育児をするには、様々な問題点が存在し、孤立する父親は少なくない。 本書では、そんな父親たちが抱える悩みの原因から、今からできる解決策、そして今後望まれる社会体制について、 産婦人科医および産業医として妊娠・出産・育児の現場を見てきた男性筆者が綴る1冊。