1939年9月8日、牧野富太郎77歳のころ。ボウブラを前にして(提供:高知県立牧野植物園)
2023年4月3日より始まった、NHK連続テレビ小説『らんまん』の主人公・槙野万太郎のモデルとなった牧野富太郎。日本植物学の父と言われる牧野が綴ったエッセイでは、彼ならではの文章で植物の魅力を引き出しています。牧野が世界に誇るに足ると考えた、日本の植物とは――。

藤は日本固有の産

ふじはわが国に二種支那に一種あるが、支那の種は早くから西洋へ行って向うの人の目を悦ばしめたものだが、かえって近いわが日本へは来ていない。日本のふじは日本固有の産で二種とも山地に自生品がある。

家植のものは、もとこの自生品を採って植えしもので、栽えた後に白花のものや八重咲のものができたものであろう。その二種の一つはやまふじである。

花穂短く花大きくかつ早く咲くこのものの白花のものがしらふじである。また一つは通常ふじと呼ぶもので、花穂が長く花が小さくやまふじより少しおくれて咲く。この品をまた野田ふじと称するのは摂州の野田に一つの名木があったからである。

この名木も近年土地の発展につれて人家櫛比(しっぴ)し、今は見る影もなくなっているとその土地の人に聞いたことがあるが、はなはだ惜しいことである。これらのふじもまた外国には産せぬのである。