ずっと仕事を続けてきて、お金に無頓着だったという小山明子さん。コロナ禍で思わぬ窮地に立たされ、生活を見直したところ、新たな幸せを見つけて――(構成=村瀬素子 撮影=川上尚見)
着回しを楽しみ、とっておきの食器を使う
私たちは戦後、豊かになって、ものを買っては増やしてきた世代。でも今は新しく買わなくても、家にあるもので十分豊かに暮らせます。服も持っているものを着回ししていますよ。
たとえば、今日着ているのは昔買ったツイードのシャネル風スーツ。タイトスカートはサイズが変わってはけないので、ジャケットだけ生かして、首元にキラキラ光るネックレスをつけたら、いい感じになったの。アクセサリーを変えたり、コーディネートを工夫するのが楽しいですね。
私が最近よく使う食器が2つあって。1つは、便利な白い器。電子レンジに入れても傷まないから重宝しているの。
もう1つは昔、大島(夫で映画監督の大島渚さん)がフランスのオークションで落札したティーセット。金縁の高価なカップだから大事にしまっておいたのですが、コロナ禍で自宅にいる時間が増えたので普段使いにして毎日そのカップでコーヒーや紅茶を飲んでいます。
このあいだ一客割ってしまったけれど、形ある物はいつか壊れるから仕方ない。それより、一生使わないまましまっておくほうがもったいないと思うのです。
ただ、手放した宝物も。大島がとても気に入っていた、楢の一枚板のテーブルと椅子です。リビングに置いてあったのですが、大島亡きあと使うには大きすぎて、5年前に藤沢市に寄贈しました。それが今、市の図書館に置かれて、利用者の方が本を読んだり勉強したりする人気スポットになっているようです。
私が見に行ったとき、ある男性が「椅子がどっしりとして座り心地がいいから、読書しても疲れないんです」とおっしゃって。大島が愛用した物が、こんなふうに役に立って、生かされている。寄付してよかったと、うれしい気持ちになりました。