言葉はコミュニケーション手段の一つに過ぎない

マニキュアをさせていただいた87歳の女性は、パステルピンクのマニキュアを選び、最後の一本を塗り終わると、突然ソワソワし始め「早く戻って、夫にこの手を見てもらわなくちゃ」とまるで恋する乙女のような微笑みをうかべられました。

ご主人様はもうお亡くなりになっています。息子さんと混同されていらっしゃるのでしょう。いくつになっても長年連れ添った配偶者を想う気持ちが微笑ましく、生前はさぞかし夫婦仲睦まじかったのだろうと羨ましく思いました。

パリで働き始めたころは、言葉のハンディを恨めしく思ったものでしたが、経験を重ねるにつれて、言葉はスキンシップやジェスチャー、アイコンタクトなど数あるコミュニケーションの手段の一つに過ぎないのだと感じるようになってきました。

どれほど言葉巧みでも、相手の心に届かなければ何の意味もありません。

逆に、たとえ相手が耳の聞こえない、目の見えない、または口のきけないような限られたコミュニケーション手段しかない状態だったとしても、手と手の触れあいや肌に触れることで心を通わせたり、思いやりを伝えたりすることができるのです。

どれほど健康に気を配っていても、身体は年老いていき、視力や聴力等も衰えて人生の終焉にさしかかっていることを意識せずにはいられませんが、ソシオ・エステティシャンの手により心地よく刺激され、きれいになった自分の姿を鏡越しに目にすることで「自分は生きている、まだ人生は終わっていない」と、生きる励みにしていただけると確信しています。

※本稿は、『70代からのパリジェンヌ・スタイル フランス女性に学ぶ、幸せなシニア暮らし』(主婦と生活社)の一部を再編集したものです。

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70代からのパリジェンヌ・スタイル フランス女性に学ぶ、幸せなシニア暮らし』(著:ゴダール敏恵/主婦と生活社)

いくつになってもパリジェンヌは強く、美しい! ひとりの高齢者にスポットを当てるのではなく、さまざまな立場、出自、スタイルを持つ人々の「生きざま」を取り上げることで、フランスの多様性を知るとともに、将来の自分の姿に照らしてより共感しやすい一冊となっています。