「断崖の錯覚」のポイント
まずこの男はとにかく「大作家になりたい」男なんですよね。大作家になるために、彼はさまざまな努力をしようとした。しかしできない。なぜなら「生れつき臆病ではにかみや」だから。臆病者の彼は、女の子に声をかけることもできないし、悪いこともできない。そして大作家になる素質は持っていないと思った。
でも、そんな「内気な臆病者こそ、恐ろしい犯罪者になれるのだった」と言う―なぜ犯罪者! ?と思ったところで読者は「ん? どういう話なんだこれ」と続きが気になってしまう。これが(1)予想外の展開、そのものです。
予想外というのは、別に突拍子もない展開を用意してほしいわけではないのです。わがままな読者の希望なんですが。突拍子もないわけじゃなくて、ただちょっと「ずらしてほしい」。
物語のセオリーに則りすぎた予定調和じゃない展開がほしい。こちらの予想を裏切ってほしい。しかしキャラクターに合わないことをしてほしいわけじゃない。――読者って本当にわがままですよね。でも本音なんですよ。「おお、そこまで踏み込むのか」と驚かせてほしいんです。