コンプレックスが付きまとい

由紀 私たちは子ども時代の童謡歌手を経て、お姉ちゃんはクラシックの世界を目指し、大学の声楽科に。絶対に勝てないとわかっていたから、私は同じ道には進まないと決めたの。

安田 そんなこととはつゆ知らず、私は私でクラシックの声楽家になるために必死で。「童謡歌手は、大人の歌い手として成功するのは難しい」と言われていた時代だから、童謡以外のジャンルで居場所を見つけることが必要だったのね。

由紀 私は歌謡曲の世界を目指し、修業のために高校1年生からキャバレーで歌わせてもらったり、オーディションを受けたり。高校3年生の時にデビューしたけれど、全然売れなくて……。短大に進学し、ふと周りを見渡せば、兄は東京工業大学からマサチューセッツ工科大学に進学、姉は東京藝術大学へ。学歴コンプレックスも生まれてしまったのね。(笑)

安田 あら大変。(笑)

由紀 いまも忘れられないのが、お兄ちゃんのお見合いに付いて行った時のこと。相手の親御さんに「上の妹さんは藝大を出ていらっしゃるそうだけど、下の妹さんは何をなさっているんですか?」って悪気なく聞かれたの。悔しくて悔しくて、家に帰ってから号泣よ。私が傷ついているのを見て、お兄ちゃんはその縁談を断ったけれど……。

安田 あなたがそんな気持ちでいたことに、まったく気づいていなかったわ。私が〈わが道を行く〉性格だからかしら。

由紀 私たちは性格が全然違うわね。お姉ちゃんは呑気で、私は負けず嫌い。私が一方的にライバル心を抱いたり、お姉ちゃんのことでカリカリしていたりすると、お母さんはよく「お姉ちゃんが呑気だから、あなたたちはうまくやっていけているのよ」って言っていたわね。確かにそのとおりだと思う。

安田 母は、私たちの操縦が上手だったから。

由紀 そういえばお姉ちゃんが大学生だった頃、アルバイトで何曲か一緒にCMソングを歌ったことがあったでしょ。その時、「商品名のところは強めに歌ってください」と指示されても、お姉ちゃんは平気で「できません」と断る。家に帰ってから、「お金をいただいているのだから、要求に応えなきゃ!仕事が来なくなるわよ」と諭したこともあったわね。(笑)

安田 あなたに怒られて、「だって、そんなふうにお稽古していないんだもの」って、天井のシミを見ながら泣いたのよ。

由紀 一緒の部屋だったから喧嘩をしても離れられなくて(笑)。あの頃は、お互い先行きが不安だったし、「攻撃は最大の防御」じゃないけれど、言い合うことで自分を守っていたのかも。

安田 あなたは音楽で食べていくことに対して貪欲で、シビアだった。でも私は、「そんな歌い方をしたら喉を壊しちゃう」って、歌の基本を頑なに優先してしまっていた。

由紀 そんなこともあったわね。

<後編につづく