毎回システムを変えていく『FF2』『FF3』

雨後の筍のように大量に生まれた初代『ドラクエ』フォロワーのファミコンRPG群のなかで、突出した評価を受けた『FF』ですが、次作『FF2』では、前作で好評だったゲームシステムをあっさり大幅に捨ててしまいます。

なんとRPGの基本ともいうべきキャラクターの「レベルアップシステム」を廃止し、その代わりに「ダメージを受ければ受けるほど体力が成長する」「剣を使えば使うほど剣が得意になる」という具合に、プレイスタイルにあわせてパラメータが個別に成長していくという、非常に独特な熟練度システムを採用します(このシステムはおそらくTRPGの成長システムをベースにしており、後に設計者の河津秋敏*3さんによって同社の「サ・ガ」シリーズなどで継承・発展されていきました)。

そうかと思えば、次の『FF3』ではまたベーシックなレベル制を復活させ、新しい「ジョブチェンジシステム」(ゲーム途中いつでもカジュアルに職業変更が可能なシステム)による自由なパーティー編成と、戦術バリエーションの多様化をテーマにします。

このように、「毎回ゲームシステムをゼロから作りなおす」というスタイルは、開発スタッフにとっても、それを理解し使いこなしていくプレイヤーにとっても、ある意味で非常に手間のかかる燃費の悪いやり方ですが「これこそがFFの醍醐味!」というファンも多く、今もシリーズの特徴として受け継がれています。

しかし、そうであるが故に、FFはドラクエに比べてシリーズを通して作品ごとの人気のバラつきが激しく、ファンのなかでも「『ファイナルファンタジー9』(FF9)は大好きだけど『ファイナルファンタジー8』(FF8)は苦手」というようなケースが起こりがちです。

逆にドラクエは安定して「だいたい全部好き」か「全体的に肌にあわない」のどちらか、という傾向があります。

だからこそ「これぞまさに自分の理想のゲーム!」という一作に出会えたときのファンの熱狂度は、FFがドラクエを遥かに上回る印象もありますね。

まさに「ファイナルファンタジー」という名前のとおり、すべての作品で一球入魂という挑戦的なスタイルこそが、FFの魅力なのです。

*1 当時のファミコン用ROMカートリッジの容量:初代『ドラクエ』の容量はわずか64KB(最近のスマホで撮った写真の100分の1以下)。そのため主人公はカニ歩き、使えるカタカナは20文字まで。呪文や街の名前もその制約のなかで付けられた。

*2 J‐RPG:80年代から、日本で独自の進化を重ねてきたコンピュータRPGの総称。ドラゴンクエスト、ファイナルファンタジーのほか、最近では『NieR:Automata』なども世界に知られている。

*3 河津秋敏:熊本県出身。初代『魔界塔士 Sa・Ga』を送り出し、ほぼ全ての「サガ」シリーズの開発に関わる。自由度の高い作風で知られ、『レーシングラグーン』体験版では自らボスキャラとして登場。現在はスクエニ第2開発事業部長兼エグゼクティブプロデューサー。

※本稿は、『国産RPGクロニクル ゲームはどう物語を描いてきたのか』(イースト・プレス)の一部を再編集したものです。


国産RPGクロニクル ゲームはどう物語を描いてきたのか』(著:渡辺範明/イースト・プレス)

「国民的ゲーム」として、日本のカルチャーに大きな影響を与えているドラゴンクエストとファイナルファンタジー。日本ではRPGがなぜこれほど人気なのか。ゲームで物語はどう表現されるようになったのか。元スクウェア・エニックスのプロデューサーで、気鋭のゲームデザイナーである著者が、ゲームシステム・世界観・制作体制に注目し、ドラクエとFFの功績をあらためて検証する。