天下一の美女とともに

賤ヶ岳の戦いに敗れた勝家は、北ノ庄城でお市の方とともに自害することになりました。

戦場で寝返るかたちとなった前田利家に、「お前は昔から秀吉と仲が良かったよな。うまくやれよ」と励ましの言葉をかけ、人質を帰した、という話も伝わっています。本当かどうかは分かりませんが、なんだかあたたかい話ですね。

また、いざ自害せんとする際には、まず妻のお市の方が

「さらぬだに うち寝ぬるほども 夏の夜の 夢路をさそふ ほととぎすかな」と詠み、勝家は

「夏の夜の 夢路はかなき 後の名を 雲居にあげよ 山ほととぎす」

と応じたと伝わります。

これもいいなあ。ホントに二人が作ったの?という詮索は…ヤボでしょう。

あくまでドラマの中で、お市の方はいまだに家康を想っている一方、勝家に愛情を向けているようなシーンはほとんど見られませんでしたが、それでも天下一の美女が敗北を責めるのでなく、あなたとご一緒します、と言ってくれたのです。

「織田の血が欲しい」とかいって女性を品定めするような秀吉と比べるまでもなく、男冥利に尽きる最期だったのではないでしょうか。


「将軍」の日本史』(著:本郷和人/中公新書ラクレ)

幕府のトップとして武士を率いる「将軍」。源頼朝や徳川家康のように権威・権力を兼ね備え、強力なリーダーシップを発揮した大物だけではない。この国には、くじ引きで選ばれた将軍、子どもが50人いた「オットセイ将軍」、何もしなかったひ弱な将軍もいたのだ。そもそも将軍は誰が決めるのか、何をするのか。おなじみ本郷教授が、時代ごとに区分けされがちなアカデミズムの壁を乗り越えて日本の権力構造の謎に挑む、オドロキの将軍論。