歌手、俳優の美輪明宏さんがみなさんの心を照らす、とっておきのメッセージと書をお贈りする『婦人公論』に好評連載中「美輪明宏のごきげんレッスン」。
8月号の書は「恋」です

恋愛の先にある「人間愛」を見つけて

読者のみなさんは、恋と愛の違いをご存じでしょうか。若い頃、恋に心を焦がした方も少なくないと思います。恋から始まり、やがて結婚し、家庭を築かれた方もいるでしょう。

恋をしている時は相手を独占したい、自分の思い通りにしたいと思うもの。待ち合わせに相手が遅れたら、ほかの女性と会っているのではないかとやきもきしたり、「こんなに待たせるなんてひどい」と怒りの感情が湧いたり。それなのに、相手の食事の仕方が下品だとか、些細なことでスーッと気持ちが冷めてしまったりもする。「恋」とはさように、自己本位なものです。

恋から始まり、「愛」が芽生えると、待ち合わせに相手が遅れても「もしかして何かトラブルに巻き込まれているのでは」「仕事で忙しいのかしら」と、相手の立場になって考えるようになります。そして遅れてやってきた相手に対して、「私も今着いたところだから」と、思いやりのある噓を言う。見返りを求めず、相手本位なのが「愛」です。

恋はいつか必ず冷めます。そして愛も、移ろっていく。結婚して生活をともにすれば、やがて恋愛感情は消えてしまうでしょう。その後には日常という修行が始まるのです。

日常生活は楽しいことだけではないし、夫にがっかりすることもあるはず。まぁ、お相手も同じ気持ちだとは思いますが。出会いから年月がたち、「もう夫には一切、恋愛感情はない」とおっしゃる方も少なくないかもしれません。でも、情は残っていませんか?

情とは人としてのやさしさであり、いたわりの心であり、人間愛です。かつて恋から始まり、一度は愛した相手に対して、今、どのくらい思いやりをもって接しているのか。たまには心のアルバムをめくって過去の自分を見つめ直し、今のありようを自身に問うてみてはいかがでしょう。

●今月の書「恋」

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