意識のない間にすませてほしい

「追っかけをやめちゃうとストレスが溜まっちゃう……。追っかけは今の私にとって、生(い)き甲斐(がい)みたいなものです。でも、いつかやめなきゃいけない。結婚してもやってる人はいるけど、いつか私にはやめる時が来る。やめた時に、このまま(挿入が)できないままだったら、私はどうなるんだろう。焦りが出ると思うんです。このままずーっと追っかけだけやって死んでいけるならいいんですけど、そういうものじゃないので、将来を考えるとやっぱり不安なんです。家庭を持つことも、持てたとしても人とうまく暮らしていけるのかな……ってとこも……」

真衣さんの盛り上がっていた声がだんだんしぼんできた。好きという感覚も、断り方もよくわからない真衣さんは、もしこの先、「好き」と男性から告白されたら、その人と「つきあう」つもりでいる。

しかしそのあとに、真衣さんの場合は楽しい恋愛というよりも、重大な乗り越えるべき壁が待っている。

「寝てる間というか、意識のない間にして、すませてもらいたいですね。意識があるから怖いんだと思うんです」と、笑ってごまかす真衣さんだが、目は笑っていなかった。

そんなに「する」ことがストレスならば、いっそ「できる」「できない」を忘れて、追っかけと仕事に専念した人生を歩んでいってもいいのではないかと私は思った。

人は何もかも自分の欲しいものを手にすることはできないのだから、今手に入る楽しいことを選択していたほうが、自分らしい生き方ができると思うのだが。そして何十年後かには、セックス抜きのいい「茶飲み友だち」がきっとできているはずだ。

しかし、まだ「できる日のために」悩み、頑張っている32歳の真衣さんに、それを言うのは酷な気がした。私は言葉を呑み込み、真衣さんに笑顔を向けた。

彼女ならきっといつか「できる」「できない」から解放されて、自分らしい人生を見つけられるに違いない。

※本稿は、『大人処女ーー彼女たちの選択には理由がある』(祥伝社新書)の一部を再編集したものです。


大人処女ーー彼女たちの選択には理由がある』(著:家田荘子/祥伝社新書)

30歳を過ぎて性経験がない女性、大人処女。彼女たちは、なぜそれを選択したのか。著者は、梓さんを含む9人に寄り添うように取材、すこしずつ聞き出していく。そこには、9者9様のドラマがあった。さまざまな価値観と生き方を伝えるノンフィクション。