2008年、松山バレエ団創立60周年の年に(写真提供:松山バレエ団)
コロナの流行を受け、多くの芸能活動が中止やオンライン配信になったりと影響を受けました。現在は元の形に戻りつつありますが、令和ならではのデジタルな表現方法も模索されているようです。そんな芸能の世界でも、長い歴史を誇るクラシックバレエ。今回は、舞踊歴70年を超えて舞台に立つプリマバレリーナ、森下洋子さんのバレエ史を振り返ります。森下さんいわく「バレエを通じて生きる喜びや勇気や希望を持っていただきたい」そうで――。

バレエの世界を広げるためならばどこへでも

私たちが踊る場所は、豪華に飾られたステージだけではありません。バレエを劇場で見ることが難しい環境にある人にも楽しんでいただきたいので、どこにでも出かけています。

2002年は東京都内の女子少年院で踊りました。森山真弓(もりやままゆみ)先生が法務大臣だった時に対談させていただく機会があり、矯正施設などのお話をうかがったことがきっかけでした。

《森山真弓さん(1927〜2021年)は東京府(現、東京都)出身。元衆議院議員。労働省(現、厚生労働省)を経て政界に転身。89年に女性初の官房長官に就任するなど女性の社会進出の先駆け的な存在だった。2001年に法務大臣に就き、刑務所の抜本改革に取り組んだ》

施設は小規模な学校のようで明るい雰囲気でしたが、院生の皆さんは最初うつむき加減でした。

『白鳥の湖』など名作の抜粋をトークを交えて見ていただくと、やがて、食い入るように舞台に集中していきます。

終演後は十数名の院生さんとの座談会。みんな穏やかな顔をしている、かわいい女の子たち。

「どうして来てくれたんですか」「何歳からバレエを始めたんですか」などと私への質問が止まりません。

この子たちがなぜ事件を起こしたのか理由はわかりませんが、何かが心に届いていたらとてもうれしいと思いました。この日の感動を忘れずに、更正して社会で活躍していることを祈ります。