視覚や聴覚を超えて

あるバリアフリー公演で、私と清水哲太郎さんが踊った『白鳥の湖』の見せ場グラン・アダージオが思いがけない感動を呼びました。

《グラン・アダージオとは『白鳥の湖』の第2幕に登場する美しいパ・ド・ドゥ。ヴァイオリンやチェロの独奏に乗ってオデット姫と王子が優美に愛を確かめ合う》

私たちが踊る場所は、豪華に飾られたステージだけではありません(写真提供:Photo AC)

来てくださった一人に、見ること、聞くこと、話すことができない状態でストレッチャーに横たわった女の子がいました。バレエに接するのも初めてだったそうです。

公演後、彼女のご両親からお手紙が届きました。グラン・アダージオの場面で、彼女が意思を伝える手段で使っているボードに、「きれい」という3文字が浮かび上がったというのです。

それは生まれて初めてのこと。視覚や、聴覚を超えて、私たちの表現が直接心に届いたこと、そして感覚で感じる生命の力、心と心なのかもしれませんが、人間という存在の根源にある美、豊かさに深く感動しました。