4歳年上の兄は、ギターを弾き、歌もうまかったが、自分の好きな外国の歌手以外は認めず、私がテレビで歌謡番組を見ると怒り出したのである。

そのため、私は20代の頃、大きな勘違いをした。

高田馬場駅近くの横断歩道で信号待ちをしている時、横にいた若い男性二人が「アリスっていいなあ」、「そうだね、涙が出るよな」と話しているのを聞き、驚愕したのである。私が幼い頃に絵本で見たルイス・キャロルの『不思議の国のアリス』に若い男性が感動し、涙を流したと思ったのだ。すぐに書店に飛び込んで確認した。私の記憶の通り、その物語には、大人が泣くようなシーンはなかった。

その後、アリスと谷村さんの存在を知ることになり、ファンクラブにも入会し、谷村さん自らが文章を書いているファンクラブの冊子が届くのが楽しみになってきた。美文とはこういうものだと学んだ。

家を売って引っ越してから8年後の日生劇場のコンサートで、私に劇的なことが起こった。事前にアリス時代を含めた谷村さんの歌の思い出の作文募集があった。私は借金返済のために売った家への思いを綴り、思い出の曲は『遠くで汽笛を聞きながら』(作詞・谷村新司、作曲・堀内孝雄)にし、提出した。選んでもらえ、谷村さん自身が読み上げ、歌ってくれたのである。一生の思い出となった。