〈カラオケdondon〉の奥まった一室。そこは通称〈バイト・クラブ〉のための部室。ここの部員になるための資格は、【高校生の身の上で「暮らし」のためにバイトをしていること】。塚原の来訪をきっかけに、三四郎と夏夫は家族の話を始める。

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菅田三四郎 私立蘭貫学院高校一年生
〈三公(さんこう)バッティングセンター〉アルバイト

 悟くんのカブの後ろにみちかさんが乗って、みちかさんの家まで送っていく。
 カブはカブでもスーパーカブだから、二人乗り、タンデムって言うんだけど、それはオッケーらしい。
 ちゃんとヘルメットもある。
 バイクが好きな人って、ヘルメットが似合うと思う。いや、誰でもヘルメットなんだから被ってしまえば同じなんだと思うけど、何となく。
 悟くんはもうあたりまえだけれど、みちかさんも、何となくヘルメットが似合う。いつかお金が貯まったら、自分でもバイクに乗りたいってみちかさんは言ってる。
 夏夫くんと僕と由希美は、方向だけは同じだ。
 いちばん遠いのが夏夫くんで、僕と同じで自転車で来ているけど、由希美がバスで帰るのでバス停まで三人で歩いていく。
「バス停からは?」
 夏夫くんが由希美に訊く。
「歩いてすぐ。一分もかからないの。バス通りをそのまま歩いて二十秒ぐらい」
「二十秒って! 本当にすぐだな」
「そうなんだよ。バス停の目の前に内科病院があるんだけど、その病院の隣りにアパートがあるんだ」
 バスを降りて走ったら、たぶん由希美の駆け足でも十秒も掛からない。
 そりゃ便利だって夏夫くんが笑う。
 だから、こんなに遅くなっても家まで送らなくても大丈夫なんだ。
 あそこはこんな時間になっても大きな通りで明るいし、営業している店なんかも多くて車もたくさん通るし、人通りもある。
 暗くて人通りも少なかったら、由希美を家まで送ってから僕も帰るようにしたけれど。
 由希美がバスに乗って、それが走り出すのを手を振って見送ってから、二人で自転車のハンドルを持って歩き出す。
 すぐに自転車に乗って走ってもいいんだけど、何となく二人で話しながら帰ってる。歩いても、三十分もかからないし。
「塚原先生ってさ、なんて呼ばれてる?」
「女子は、りっちゃんって呼んでるね。男子は普通に呼んでるけど、中にはりっかちゃんって呼ぶのもいるかな」
「だよな、呼びやすいもんな〈りっか〉って」
 そうなんだ。
「言ってたよ。それこそ学生の頃にはほぼ全員が〈りっか〉って呼んでいたって。先生たちも」
 ちょうど僕が、皆が〈三四郎〉って呼ばれるのと同じように。
 言ったら、笑った。夏夫くんの笑顔って、なんかカッコいい。まるで俳優さんみたいな感じに見える。
「そうだよな。ゼッタイに皆〈三四郎〉って呼んじゃうよな」
 全然イヤじゃないけどね。
「塚原先生さ、俺の母親と高校一緒だったんだって」
「え?」
「さっき、皆には言わなかったけどさ。なんとなく」
 高校が一緒。