<『監督不行届』第拾八話より>
漫画『ハッピー・マニア』で人気を博し、その後の作品『シュガシュガルーン』では第29回講談社漫画賞を受賞するなど、数々の名作を生み出している、漫画家・安野モヨコさん。そして、安野さんのパートナーはアニメ『新世紀エヴァンゲリオン』の監督・庵野秀明さん。このクリエイティブなご夫婦は一体どんな生活を送っているのでしょうか。安野さんは、「2022年の3月で結婚して20年を迎えた」そうで――。

旅の思い出

2022年の3月で結婚して20年を迎える。
いまだに私たちが夫婦だと知って驚いている人が
いらっしゃるのを散見するけど
まさかこんなに長く一緒にいると思わなかったので自分たちでも驚いている。

本当なら20周年記念でどこか旅行にでも行きたいところだが
このご時世では難しい。
大人しく家で過ごすことになりそうだ。

思えばこの20年いろんな場所へ旅行した。
私は忘れん坊なので全部は思い出せないが、今パッと思い出せるものについて書いてみようと思う。

最初の旅行。
まだはっきり交際してるのかどうかわからないようなころ
私がハワイに行くので監督に付き合ってもらった。

ただ単に買い物がしたかっただけなのだが友人の都合がつかなくなったので
ダメもとで一緒にいかないか、と誘ってみたのだ。

ハワイみたいな場所には興味がなさそうだったので
断られるかな、と思っていたのだけど行くという。
正直ちょっと驚いた。自分で誘っておいて
え、行くんだ。
みたいな気持ちになった。だって監督ハワイのイメージ無いし。
落ち着いて考えてみたら自分の買い物に付き合わすわけにもいかないし
向こうで何すりゃいいんだろう?

ホテルのテラスでビール飲んでるとこしか思い浮かばない。
果たして現地に着いてみるとどうしても行きたい場所があると言い出した。
戦艦ミズーリである。

ずっと買い物ばかりもつまらないので付いて行く事にする、と伝えると
若干迷惑そうな顔をしている。
それでもあまり気にせず一緒に真珠湾に向かった。

戦争体験者のおじいさんが案内してれるツアーは結構な人気だった。
30人くらいのグループで歩くのだが、その間中ずっと写真を撮っている。
みんながガイドさんの説明を聞きいったり驚いたりしている間中も
一言も発することなくただ自分の行きたい場所にどんどん移動して
文字通り死ぬほど写真を撮りまくっている。

その間もちろん私は完全に放置されていた。

なんのことはない、監督の目的はミズーリの資料写真を手に入れることだったのだ。

そのほかには遊園地やハナウマベイなどでシュノーケリングをしたけど
お互いやりたいことや行きたい場所が違いすぎて噛み合わない。
疲れ果てて東京に戻ったときには
無言で別れたのを覚えている。
成田離婚する人たちってこういう感じなのかな、と思った。

そこからどうやって復縁したのかは忘れてしまった。

その次に思い出すのは著書「監督不行届」でも描いたオーストラリア旅行だ。
私は独身の頃思い立って1人で海外旅行することがあったのだけど
エアーズロックが好きでよく行っていた。
日本だと見ることがないような景色が面白くて、行くと頭の疲れが
スコーンと抜ける。
同じ理由でグランドキャニオンもよく行っていた。

それを監督にも見て欲しい、と結婚して割とすぐ一緒に行ったのだが
エアーズロックに対しては「まあまあだな」と、なぜか上から目線だった。
監督は巨大建造物とかの方が好きで、自然の巨大な景色にはそこまで惹かれないのかもしれない。
この旅行では監督が日焼けしすぎて死にかけたのだがそれは
漫画にも描いたので皆さんご存知のことと思う。