「知らないことだけを武器にして、僕は今まで生きてきたんですよね」(撮影:岡本隆史)
演劇の世界で時代を切り拓き、第一線を走り続ける名優たち。その人生に訪れた「3つの転機」とは――。半世紀にわたり彼らの仕事を見つめ、綴ってきた、エッセイストの関容子が聞く。第34回は俳優の平田満さん。『蒲田行進曲』でブレイクし、テレビドラマや大河ドラマにも出演。しかし、このままじゃ役者として駄目なんじゃないかと感じ、フリーで活動することを選んだそうで――。

前編よりつづく

自分で生きるっていいじゃないか

ところで『蒲田行進曲』の舞台初演(80年)の配役は、二枚目スターの銀ちゃんが加藤健一、銀ちゃんに憧れる大部屋俳優のヤスが柄本明、二人の間で揺れ動く小夏は根岸季衣だった。翌年の再演で銀ちゃんが風間杜夫に替わる。

82年、小説『蒲田行進曲』でつかこうへいが直木賞を受賞。その後映画化の話が持ち上がり、小夏はすぐに松坂慶子に決まるが、銀ちゃん役を松田優作が辞退して風間杜夫に。

――そうだったらしいですね。つかさんから「おぅ、今度の映画、お前ヤスやるからな」って言われて、あぁ、やるんだ、みたいなね。舞台では違う役で出てましたけど、ヤスをやったことはなかったし、それに映画のことはまったくわからないし、風間さんと一緒だったんで何とかできたんだと思う。

それこそ、手こそ繋いでませんけど、いつも一緒に歩いてました(笑)。撮影所までの送り迎えもしてもらって、もう超過保護。

まぁ、知らないことだけを武器にして、僕は今まで生きてきたんですよね。あいつだからしょうがないや、って大目に見てもらってきた70年ですから。