(構成:清野由美 撮影:本社 奥西義和)
「破果」とは運命の巡り合わせ
――2026年3月上演のミュージカル「破果(パグァ)」は、韓国版がオリジナルで、主役の爪角(チョガク)は60代の殺し屋という、フィルムノワール(暗黒映画)のような異色作です。花總さんのイメージとはずいぶん違いますが、どのような気持ちで役を引き受けたのでしょうか。
まず、この作品がストーリーとして、とてもよくできているので、そこに心惹かれるものがありました。守るべき人も、守られる人もいない60歳の殺し屋女性が、孤独で厳しい人生を強いられている。そんな物語は、悲しくはあるのですが、底には静かに運命を受け入れる彼女の気高さもあります。この役を演じることで、私もまた次の一歩を踏み出せるのではないかと思ったんですね。
――ミュージカルの原作は韓国でベストセラーになった、ク・ビョンモよる小説。一匹狼のチョガクが、彼女の命を狙う青年と、否応なく戦っていくハードボイルドな内容ですが、共感ポイントは、どこにあったのでしょうか。
人生の接点というほどの強いものではないのですが、私自身、年齢を重ねてきて、50代を迎えた時に、新しい自分と出会いたいと思っていたことがあり、この役を通してそれができると感じた。そのことがあります。
宝塚歌劇団に在団中から、いろいろな役を演じたいという願いは、今にいたるまで、ずっと持ち続けています。在団中も退団後も、舞台では歴史上の人物から、想像上の妖精まで、さまざまな役をいただきました。きれいな衣装を着た、華やかな役も多く、なんて幸せなことだろうと思っていましたが、50代になったら、それだけでは自分自身がつらくなるだろうな、ということは分かっていました。そのタイミングで、『破果』のお話をいただけたので、これは運命の巡り合わせだな、と。