(写真提供:Photo AC)
道端に咲く花や、観賞用のサボテン…日常に溢れている「自然」の背景について考えたことはあるでしょうか。今回は、自然の美しさとおもしろさを伝えることを軸に、ネイチャーガイドや自然教育、ワークショップなど提供され活躍されているノダカズキさんの著書『自然はすごい いつもの道が美しく見える5つの視点』より一部を抜粋してお届けします。

植物なのに、葉っぱを捨てる

サボテンが最初に選んだ進化の一手は──葉を捨てることでした。

えっ、葉っぱを? と驚かれるかもしれません。植物の象徴とも言えるそのパーツを、自ら手放したというのです。なぜそんな決断を下したのか? その理由は「蒸散」という現象にあります。

蒸散とは、葉っぱから水分が水蒸気として空気中に逃げていくプロセスのことです。ざっくり言えば、植物の「汗」です。しかも常にダダ漏れ。普通の環境なら問題ありませんが、砂漠となると話は別。水が一滴も手に入らない世界で、「汗かき体質」はもはや致命的です。

そこでサボテンは考えました。「だったら、葉っぱごとやめてしまえばいいじゃないか」と。そして、本当にやめました。潔い。あっぱれです。

でも、葉っぱがなかったら光合成はどうする? そう、当然浮かぶ疑問ですよね。光合成は、多くの植物にとってエネルギー生産の根幹。それを放棄するというのは、言ってみれば“次の仕事が決まってないのに会社を辞める”ようなもの。ちょっと無謀にも思えます。

けれど、サボテンは立ち止まりませんでした。彼らは光合成を「茎」で行うという、新たな道を切り開いたのです。茎で光合成する植物……ちょっと聞き慣れませんが、事実です。よく見ると、サボテンの茎は妙に緑が濃いことに気づくはず。あれは、光合成に必要な色素「クロロフィル(chlorophyll)」をたっぷり含んでいる証拠です。

普通の植物なら、クロロフィルは葉に集中しており茎は薄い緑のイメージだと思います。でも、サボテンはクロロフィルを茎に集約することで、葉の仕事を茎に“アウトソーシング”しているのです。結果、彼らは葉っぱを手放しても、水を守りながらエネルギーはしっかり自給自足しています。

乾燥した大地、CO2の減少、植物たちの危機──。その極限状況の中で、サボテンは“奇妙さ”を武器にして、したたかに生き残ってきました。

そのちょっと風変わりなフォルムは、生きるために洗練された完全な体なのです。筋トレで言えば、“絞りきった仕上がり”。つまり、サボテンは乾燥地帯を生き抜くために、必要なものだけを残し、余計なものをバッサリと捨ててきた、究極のボディメイクに成功した植物と言えます。