私が連れ出してあげないと外出ができないので、たまの買い物は父にとって大きな楽しみかもしれない…(写真:stock.adobe.com)
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父との束の間の外出

96歳の父の病院受診の日。父は93歳の母とともに去年から介護施設で暮らしているが、通院時には私が施設まで車で迎えに行く。その日は、午後の受診が終わってから、夕食までだいぶ時間があった。

リハビリも兼ねて散歩できればと思い、父に「どこかに寄っていく?」と聞いてみた。父は耳がもうほとんど聞こえないので、会話はいつもスマホのアプリを使う。

父はスマホの文字を読むと、半分笑いながら「いい所があれば」と言うので、近くの神社まで行くことに。健脚だった父もすっかりヨロヨロ歩きだから、転ばないように私が支えながら歩く。でも、今日はいつもより足取りがしっかりしていた。

二人でお参りした後、帰り道に食料品店に寄った。私が連れ出してあげないと外出ができないので、たまの買い物は父にとって大きな楽しみかもしれない。目についたミカンとクッキーを嬉しそうにかごに入れた。

ついでに近くのケーキ屋さんにも入る。父は「これがいい」と、チーズケーキを指さす。母の分と2つ分の代金を払っていると、さらにお菓子を1つ持ってきて、「これも食べてみよう」と無気に言う。

甘党の父は、美味しそうなお菓子を見つけると次々食べたくなってしまうのかもしれない。ま、いっか。私はそう思い、追加のお金を支払った。

帰り道、最初のお店の前を通ると、また何か買いたそうにする。「さっきミカン買ったよ」と袋から出して見せると、今度はリンゴが欲しいと言うので、私は1袋4個入りのリンゴをレジに持っていく。

するとそこに、父がまた新たにリンゴを1個持ってきた。「えっ、今リンゴ買ったよ」と私が困惑すると、お店の方が察して「はいどうも」と父のリンゴを受け取ってくれた。父は今したことをすぐに忘れてしまうのだ。

膨らんだ買い物袋を持って車に戻るとき、父が一生懸命手をこすり合わせていることに気づいた。外は全然寒くないのに、手を触ってみると氷のように冷たい。そういえば、母の手を触ったときも、家の中なのに冷たかったことを思い出す。

母はもう出かける元気はなくなってしまったけれど、父はまだ外出を楽しむことができる。なんだか子どものようになってしまった父を、「またどこかに連れて行ってあげよう。今度は手袋を用意したほうがいいかな」と思いながら見つめるのだった。


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