『虹の岬の喫茶店』や『おいしくて泣くとき』など、数々の心温まる名作を生み出した小説家・森沢明夫さんは、日頃の執筆の合間にスポーツクラブに通い詰めています。そこでは、風呂で滝行するおじさまやアンダーウェアのみの全身タイツなおじさまなど、ツッコミどころ満載の愛すべき利用者たちとの出会いがありました。今回は、森沢さんが遭遇した愉快な隣人たちと自らのトレーニングの日々を綴った『となりの筋トレ 小説家は見た!ジムの愉快な日々』より、一部を抜粋してお届けします。
天国ジジイと行水ジジイ
スポーツクラブの風呂で気持ちよくシャワーを浴びていたときに、その事件は起きました。
「ひいいっ! こ、こらっ! なんだ、あんたっ! 心臓が止まるかと思ったじゃないかっ!」
突然、老人のしゃがれた怒声が風呂場に響き渡ったのです。
驚いて声の方を見ると、シャワーで身体を洗っている80歳くらいの爺さんが、となりで頭からザブザブと冷水をかぶっている爺さんに噛み付いているのでした。
「あんた、行水するなら、人のいないところでやりなさいよっ! 両どなりの人は、急に冷たい水をぶっかけられて、びっくりして天国に逝っちまうよっ!」
ようするに、はた迷惑な「行水ジジイ」が、冷水をバシャバシャと両どなりにはねさせて、それにビックリした「天国ジジイ」が激怒しているという構図なのでした。
個人的にぼくも、過去に何度が「行水ジジイ」の洗礼を受けて迷惑していたので、心のなかでは「天国ジジイ、がんばれ~っ!」と応援していました。
多くの会員で溢れかえった風呂で、一身に注目を集めてしまった行水ジジイは、「す、すみませんでした。以後、気をつけますんで」と平謝りして、そそくさとシャワーの前から逃げ出しました。
でかしたぞ、天国ジジイ!