現在放送中の、2026年度後期連続テレビ小説『ブラッサム』。石橋静河さん演じる主人公・葉野珠のモデルは、作家・宇野千代さんです。小説家として数々のベストセラーを生み出したほか、着物デザイナー、実業家、モデルとしても幅広く活躍した宇野さん。今回は、宇野さんが88歳から91歳のときに語り下ろされた言葉をまとめた『宇野千代 ちょっと自伝』より一部を抜粋してお届けします。
見えないところでよよと泣きました
この頃ね、あとになって、ああ、この話をすればよかった、あれも忘れた……と思うことが多いのでね、メモに書いておくようにしているの。それで、『私の男性遍歴』というメモをちょっと読みますよ。
△宇野千代と言ふと、世の中の人はすぐ、男性遍歴の代表選手見たいに言ふが、果して、これはほんたうか。打明けて言ふと、実はその反対なのである。
△確かに私は、世の普通の人よりは、結婚生活を何度も経験してゐるが、何も好きこのんでさうした訳ではなく、余儀なくさうなったのだ、と自分では思ってゐる。
△私の恋愛は凡て一方的で、相手の迷惑も考へずにつっ走るので、しばらくすると嫌はれる。私を嫌って逃げて行く人の、後は追はない、「それが恋愛の武士道です」などと偉さうなことを言ったこともあったが、人の見てみないところでは、よよと泣いたりする。人間は誰でも、みな同じである。
――そう、よよと泣いたんですよ。内緒だけど。
いまはもう、男を追っかけたりはしません。興味がなくなったのではなく、非常に抽象的に興味がありますね。肉体を持っている、動物としての男ではなくて、抽象化された男性にです。