鎌田先生いわく、思いどおりにならないときこそ、あえて楽観的な考えを選択することが大事だそうで――(2015年6月撮影。写真:本社写真部)
「名前が出てこない」「昨日の夕飯は何だったっけ」「また同じ本を買ってしまった」……高齢になると増えてくる「もの忘れ」の悩み。一方、長年にわたって高齢者医療を牽引する鎌田先生は「人生の8割は忘れていいこと」「嫌な気分も、他人の評価も、古い健康常識も、気が進まない人間関係も、忘れることで幸せな老後が待っている」と主張しています。その鎌田先生いわく、思いどおりにならないときこそ、あえて楽観的な考えを選択することが大事だそうで――。

ユキオさんの意志

72歳のユキオさんは食道がんを患い、内視鏡的粘膜切除術や放射線治療を受けたものの、いよいよ限界を迎えました。厳しい余命の話もしました。

しかし、彼は「なんとかなるだろう」とニコニコしていました。「きっとよくなるよ」と言いつつも、死の準備を始めたのです。

身寄りがないので、自分で葬儀社を呼び、いちばんお金がかからない方法を選んで、前金を払いました。

年金で細々と暮らしていましたが、お金が残りそうだからと、病院に寄付を申し出てくれました。

大切な2万円。ぼくたちはもちろん「もらえない」と断りました。

でも、ユキオさんの意志は固かった。「もらってくれなければ困ります」と何度も繰り返しました。