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青木さやかさんの連載「50歳、おんな、今日のところは『……』として」――。青木さんが、50歳の今だからこそ綴れるエッセイは、母との関係についてふれた「大嫌いだった母が遺した、手紙の中身」、初めてがんに罹患していたことを明かしたエッセイ「突然のがん告知。1人で受け止めた私が、入院前に片づけた6つのこと」が話題になりました。
今回は「歯に苦労してきた人として」です。

前回「40年前のゴールデンウィークの思い出は、家族で行った潮干狩り。父が好きだった富山県・利賀村に、自分のルーツを訪ねてみることにした」はこちら

歯だけは大事に

「あんた、歯だけは大事にしないかんよ」

95歳になる祖母の口癖と言えばこれだ。子どもの頃から耳にタコができるほど聞いてきた歯だけは大事にしろ話、「はいはい」としっかり聞き流してきたが、最近ではわたしが中学2年生の娘に同じことを言うようになった。

「ほら、起きてください。このまま寝ちゃうんだから、その前に歯を磨いてください」
「ママだって歯磨きしてないじゃん」
「わたしは、いいのよ、もう。いいんです。ほとんどの歯が死んでおりますんで」
わたしの上の前歯の数本は、インプラントである。
「寝ないから、あとですぐに歯磨きするからいい」
「寝ちゃうじゃない。いつも。歯だけは、あなた。本当に大事にしなさい」

娘は、しつこい小言のおかげで洗面所に向かった。それでいい。それでいいのだ。