文部科学省の学校基本調査(2021年度)によると、自閉症・情緒障害特別支援学級には小学校で12万266人、中学校では4万4842人の児童生徒が通っているとされ、この数は増加傾向にあるとされます。今回は、医師で作家の松永正訓先生が、幼児教育や子育てに関して著作活動や講演活動をしている立石美津子さん(=本文「母」)と自閉症を抱える息子さん(=本文「勇ちゃん(仮名)」)の実体験を紹介します。立石さんいわく「健常児を見ることは自分にとって、とても大きな負担」だそうで――。
健常児を見るのがつらい
健常児を見ることは母にとって大きな負担になった。勇ちゃんと健常児はあまりにも違った。
健常児を見て、うらやましいという思いは、妬ましいに変化し、それが憎たらしいにまでエスカレートしそうになった。
自分は自閉症という障害を受け入れたはずだった。しかし保育園で健常児と我が子を比較してしまうことを母はやめられなかった。それが大きなストレスになった。
ママ友との会話はしだいに噛み合わなくなってきた。
「うちの子、お姉ちゃんの真似ばっかりして困っちゃうの」
そう言われると母は心の中で呟いた。
「何でそれが困るの? 人の真似をするということは人に関心がある証拠。うちの子は、人に関心を持たないから真似なんて全然できない」
また、こういうママ友もいた。
「最近、汚い言葉を覚えてしまって、そんな言葉ばかり言うのよ」
母は黙ってこう思った。
「汚い言葉だって出るだけマシ。うちの子は一言も喋らない……」