なんて日だ!

わたしは

「スキーウェアを前後ろ間違えたからですか?」

と返事を出した。

そうしたら

「それだけじゃありません」

とまた返事がきて

「教えてください」

と聞いたら

「いや。別にないんだけど。青木って授業のチャイムが鳴ってから走ってるんだけど。僕、構内を走る人ってどうかと思う。カセットテープを貸したときに、最後まで巻き戻してなくて、巻き戻してほしかった。別にいいんだけど。ほら、今も、ベルトをさ、ベルト通しに通してない、通ってないよ、それ。知ってたかな?」

別にないんだけど? 気に入らないところ、羅列しましたよね。

『50歳。はじまりの音しか聞こえない 青木さやかの「反省道」』(著:青木さやか/世界文化社)

「真面目な人かと思って、合うと思ったんだよね」

「わたし? 真面目は、真面目ですよ」

「だらしないのかな」

「だらしないんでしょうか」

「ごめんね」

「なにがですか?」

「つき合えなくて」

「大丈夫です」

「相談は、のれるから」

「なんのですか?」

「なんでも」

「ありがとうございます」

「構内で会ったら」

「はい」

「挨拶はしよう」

「はい」

「泣かないで」

気づいたらわたしは泣いていた。なんの涙かはわからないけど、なんて日だ! と思った。