思い残すことがまったくない人生

去年の夏に「これが最後の家族旅行だ」と覚悟して南の島に行き、私は涙が出てきたりしましたが、今年の夏もちゃんと行けた。日々、穏やかに過ぎていっていることがうれしいです。自分だって明日どうなるかわからないわけですから。

この人と結婚してよかったと改めて思います。この人が今、一人だったらどんな風になっていたか…。私という人間がいてよかったと。がんサバイバーで、1日でも長く生きるために生活をがらりと変える方も多い。もちろんそれも生き方だし、選択です。でも、夫は一日でも長生きしようなんて全く考えていないし、毎日、好きなお菓子を食べて、好きな人たちに会って、好きな漫画や映画を観て、好きに生きてくれればそれでいい。妻として思い残すことがないと言われて、寂しいというより、そのほうが嬉しい。

もし「いますぐ死ねるボタン」があったら、彼は押すと思います。それほど、思い残すことがまったくない人生だからです。

つい先日、夫から「あんたがいてくれてよかったよ」と言われたんです。こんな弱気なことを言う人じゃないのに、とまったく嬉しくなかった。毎日、肩や手足を揉んだり、食べ物を用意したり、果物をむいたりしても「ありがとう」なんて言ってくれなくていいんです。そんな弱気な態度は見せてほしくない。何も考えない、今までどおりの夫でいてほしいと思っています。


エンドロール! 末期がんになった叶井俊太郎と、文化人15人の“余命半年”論』(著:叶井俊太郎/サイゾー)

映画業界では知らない人のいない名物宣伝プロデューサー・叶井俊太郎(かない・しゅんたろう)。数々のB級・C級映画や問題作を世に送り出しつつも結局は会社を倒産させ、バツ3という私生活を含めて、毀誉褒貶を集めつつ、それでもすべてを笑い飛ばしてきた男が、膵臓がんに冒された!しかも、診断は末期。余命、半年──。
そのとき、男は残り少ない時間を治療に充てるのではなく、仕事に投じることに決めた。そして、多忙な日々の合間を縫って、旧知の友へ会いに行くことにする……。