「他の部屋を借りられないし……」
訴訟の手続きに入ると、ミズエさんは「わたしに死ねと言うのですか?」と連絡をしてきました。
もちろんそんなことは、一言も言っていません。でも「契約を解除したので、退去してください」と書かれた訴状を読んで、ミズエさんは「もう生きてはいけない」と思ったのかもしれません。
長年住み続けてきたのですから……。そう言いますが、賃貸物件の場合、家賃を払わない人に部屋を貸し続けることはできないのです。
家主だって、ビジネスで賃貸経営をしているのですから、家賃を払ってもらえないなら、退去してもらってきちんと払ってくれる人に借りてもらいたい、そう考えるのは当然のことです。
ミズエさんは、法廷では、急に弱気になって「他の部屋を借りられないし……」と言い出しました。裁判官も同情的にはなりますが、払えない以上仕方がありません。
たまたまミズエさんの住んでいるエリアは、低所得の方々への居住支援を手厚く行っている地域でした。そういうエリアは、明け渡しの判決書を持って行政の窓口へ相談に行くと、緊急性があるということで担当者も頑張ってくれることが多いのです。
ミズエさんにもその旨をしっかりお伝えして、窓口へ行ってもらいました。結果として、空いている公営住宅に入居することができました。