バターを冷蔵庫に入れるとまずくなる?
私も独り暮らしを始めた頃、冷蔵庫が壊れてしまって、しばらくそれなしで生活したことがある。肉、魚、野菜などは食べるぶんだけ買ってきて、新鮮なうちに食べてしまうというのは、食卓がシンプルになるけれど、案外悪くなかった。
でも、大好きなある食材を保存するためには、やっぱり冷蔵庫は必要だなと思っていたが、その概念すらもフランスで覆されてしまった。ソフィーの家に滞在していたとき、彼女の夫ニコラ(彼は生粋のフランス人)が私たちに語った衝撃の事実。
「うちの田舎じゃ、バターは冷蔵庫に入れない。まずくなるから」
そうなの!?
さすがに私もこれには驚いた。バター大好きでも、室温のまま置いといた方が美味しいだなんて、知らなかった。でもソフィーは、
「それは、あなたの田舎だけ」
と冷ややかに返していたから、現代のフランスでは、もはや古き慣習なのかもしれない。とはいえニコラの実家も、できたてのフレッシュなバターがすぐ手に入る環境にあるんだな、とうらやましく思った(そして寒い地方だと思う)。
※本稿は、『パリのキッチンで四角いバゲットを焼きながら』(幻冬舎文庫)の一部を再編集したものです。
『パリのキッチンで四角いバゲットを焼きながら』(著:中島たい子/幻冬舎文庫)
長年フランスを敬遠していた私だったが、40代半ばを過ぎて、パリ郊外に住む叔母ロズリーヌの家に居候することに。毛玉のついたセーターでもおしゃれで、週に一度の掃除でも居心地のいい部屋、手間をかけないのに美味しい料理……。彼女は決して無理をしない。いつだって自由だ。パリのキッチンで叔母と過ごして気づいたことを綴ったエッセイ。