85歳で出した世界記録は、88歳まで自分で更新し続けた。90代になっても勢いは止まらず、23年11月の「第15回東京マスターズトラック記録会」では100mを25秒7で走り、大会記録を更新。テニスでも、前述した通り「ITF世界選手権」で悲願の金メダルを獲得した。
この大会でダブルスのペアを組んだのは、恵美子さんと同い年の友人だ。普段は高齢者向け施設で生活している彼女から9年ぶりに連絡が来て、「スペインで開催される大会に一緒に出ない?」と誘われたというのだから驚く。
「これまでも、テニスのおかげでいろいろな国を訪れることができました。アメリカやオーストラリア、オーストリア……。どの国や地域にも違う良さがあって、思い出深いです」
懐かしそうに振り返る恵美子さんに、93歳になった今もトレーニングを続ける理由を聞くと、「もっとうまくなりたいから」という答えが返ってきた。
「実はスペインから帰国して以降、体が本調子に戻らないの。70代には70代なりの、80代には80代なりの衰えは感じていましたが、90代でこんなにガクッと落ち込むとは思いませんでした。それでも、テニスを続ける以上は結果を出したい。やっぱり勝てば嬉しいですから。
それに、練習でも試合でも、そこへ行けば仲間に会える。私にとって、人と交流することが一番の励みであり、楽しみです。だからこれからも無理のないペースで、一日でも長く続けていきたいと思っています」
* 齋藤恵美子さんは3月2日に急逝されました。謹んでご冥福をお祈りいたします。元気に取材を受けてくださったお話を、そのまま掲載いたします