お赤飯が出たと喜ぶ父
コロナの面会制限が解除されるまでに2ヵ月近くかかったため、7月下旬の誕生日にも会えなかった。しかし下着とメロディー付きバースデーカード、新聞などを届け、病院の1階から、4階にいる父と電話で話した。
「パパ、誕生日おめでとう!」
「95歳になった……あと5年で100歳だ。まあ、めでたいよな。そういえば、誕生日だから、昼に赤飯が出て、うまかった」
「それは良かったね」
「看護師さんたちがハッピーバースデーを歌ってくれて、照れくさかったけどな」
病院のスタッフが誕生日のポスターを病室の壁に貼ってくれたそうで、それを父は私に見せたいと看護師さんに頼んだらしい。父としゃべっている間に、4階の看護師さんが誕生日のポスターを剥がして持って来てくれた。
楽しそうに笑っている父の写真も貼ってあり、病院生活にすっかり慣れているようだった。
「今ポスター見ているけど、楽しい誕生日になって良かったね。今年は暑くて私は夏負けしているよ」
「そうか、大変だな。病院の中は冷房が効いているので、俺は調子がいいよ」
父は前年までは一人で家に居る時、夏でもヒートテックの肌着を着ると言い張ったり、水分を摂るのを拒んだりして脱水状態になり、その度に病院に連れて行かなければならなかった。父が熱中症になるのでは、という恐怖から数年ぶりに解放されて、実は私もほっとしていた。
◆本連載は、2024年2月21日に電子書籍・アマゾンPODで刊行されました