情緒ある街並み
その日は、数日前までの春を先取りしたような陽気は息を潜め、しとしとと冷たい雨が降り、3月だというのに真冬のように冷え込んだ。風も強く、ドレスとヒールで寒空の中歩くのはしんどい。お言葉に甘え、送ってもらった。
オーナーさんの優しさは、それでは終わらなかった。宿はシャワーだけしかないため、結婚式の会場から近い温泉と、その行き方、宿までの帰り方を教えてくれた。そのおかげで、結婚式が終わった後、冷えた身体を温め、雨の中を最短ルートで帰ることができた。帰りの道中、翌朝のご飯を買う余裕もなく、早朝飛行機に乗るために朝2時に起きた疲れがたまり、帰ったらすぐに死んだように眠った。そして、翌日昼前に起きた私たちは、カフェスペースのあるパン屋をネットで探した。しかし、行列ができる店はたまたま定休日でやっていないという。すると、オーナーさんが、ここから歩いて2分のところに、クロワッサンとシュークリームが有名で、昼過ぎには売り切れるお店があると教えてくれた。
言われた通り小道を歩くと、昔の建物がたくさん残っている情緒ある街並みの中に、リノベされて命が吹き込まれた新しいお店もたくさんある。昔と現代、その折衷がなんとも美しい。街の中心地から外れたところだが、だからこそ静かで落ち着いていて、風情がある。
教えてもらったお店は、注意しないと通り過ぎるような小さな看板がある入口だった。扉を開けると、レトロでお洒落な店内に、まるで絵本から飛び出してきたような焼き菓子が並んでいる。なんとも渋いルックスの店主が色々と説明してくれた。そこで名物だというクロワッサンとスコーンを買い、ゲストハウスに戻ってトースターで焼いた。オーナーさんが、そのトースターは火力が強くて焦げるから気を付けて、と言ったので中を見ると、いい焼け具合で、もう少しで焦げる寸前。おかげでめちゃくちゃいい焼き色が付いた状態で食べることができた。クロワッサンは一口食べるとバターの香りが口いっぱいに広がり、サクッの後にもっちりとした触感がある。サクッだけだと思っていたクロワッサンの概念がたった今更新された。あまりにおいしくて、友達と思わず唸る。
そこから夕方のフライトまでの予定は決めていなかったが、道後温泉には行きたい、と漠然と思っていた。オーナーさんに、今日はどちらへ?と聞かれたので、「道後温泉に行こうかなと」と言うと、「そっちの方面に用事があるから、ついでに送っていきますよ」と言う。調べると電車と徒歩で行けば1時間近くかかる。送ってもらったおかげで、随分と早く着くことができた。