忘れられない出来事

忘れられない出来事がある。成人式でのことだ。私は黒いリクルートスーツで参加した。振袖をレンタルするお金がなかったのだ。当然私以外は皆振袖を着ていた。振袖を着た彼女はずっと私の隣にいてくれた。彼女は私がスーツであることなど全く気にせず、そのことに触れることもなかった。最後まで明るくいろんな話をしながらそばにいてくれた。

彼女は友達も多いし、私が中学で不登校だった時、私をよく思っていなかった子たちとも仲がいいはずだ。それに、真っ黒のリクルートスーツの私と一緒にいたら、好奇の目で見られるかもしれない。でも、そんなことはまったく気にしていない様子だった。それに、どれだけ救われたことだろう。人目は気になっても、彼女が隣にいてくれたから、そこにいることができた。

名物のみかんがあちこちにたくさん

きっと、彼女は特別なことをしているつもりはなかったのだろう。でも、私にとっては、一生忘れられない恩なのだ。そんな彼女の結婚式。一生に一度の晴れの日を祝いに行きたい。そう思い、もう1人の高校の友達と参加することにした。

『死ねない理由』(著:ヒオカ/中央公論新社)

初めて参加する結婚式は、想像以上に幸せな空気に満ち満ちていた。その場を包むオーラ、エネルギーがもう、幸せ一色。多幸感が凄まじい。新郎が泣いているのをみてもらい泣き。ご両親が泣いている姿を見て号泣。「未熟なふたりですが、これからもご指導よろしくお願いします」という言葉に、これからも応援する! と親戚のような気持ちになった。

結婚式は、ゲストとして参加するにも、ご祝儀、ドレス、ヘアセット、交通費など、とにかくお金がかかる。だから、宿はとにかく一番安いところで探した。見つかったのは、会場からは少し離れたゲストハウスだった。底値ではあったが、昨年オープンしたばかりだと言う、飲食店をフルリノベしたゲストハウスは小綺麗だった。

直前までずっと仕事に追われていて、現地に着いてからの目的地までの交通機関の乗り換えなどは詳しく調べていなかった。ヘアセットが終わってゲストハウスに戻ると、女性のオーナーさんが、「結婚式に参加されるんですか?会場はどこ?」と聞いてきた。「**というホテルです」と言うと、「車で行くと5分だから、乗って」と申し出てくれたのだ。