僕は17歳でデビューして以来、60年以上、歌手としてステージに立ってきました。しかし80歳を迎える数年前から、自分の「やめどき」を考えるようになって。体力の衰えや、声の出しにくさを感じることが増えていました。

年齢が年齢ですし、僕も老いには逆らえないということ。この状態でいつまでも人前に立ち続けるのはどうなのか、どこかでケジメをつけなければならないねと、妻には話していました。

振り返ると、先輩歌手のなかには、いつのまにか表舞台から消えてしまった方が結構多いんです。現役時代は大スターであっても、ふと気付いたらいなくなっている。最近あの人、全然見ないね、と楽屋で話題になったりして……。

僕はそういうフェードアウトの仕方は性に合わないし、嫌だなと思っていました。自分の終わりくらいは自分で決めたかった。

だって、17歳での歌手デビューも、そこから始まった歌手としての活動も、自分自身で決めたことは何一つないんだもの。だから先の引退は、僕の人生で初めての、僕自身による決断でした。

でも、このとき、僕はとても大事なことを忘れていたんですよね。僕がたくさんの人々に支えられている歌手だ、ってことを。